マンガ

「自分の幸せ」を見つける方法は…逃げること(探さないでください)

今の「現実」から逃げたいという思いは誰もが一度は持ったことがあるでしょう。でも、そもそもその「現実」は「夢」から逃げた末にたどり着いた場所だったりもします。

多くは「夢」から逃げ、なんとか「現実」でがんばっているという人が多いんじゃないでしょうか。その「現実」から本当に逃げてしまうとその先には何があるのでしょうか。

本記事では、漫画家・中川学の失踪漫画「探さないでください」から「夢からも現実からも逃げた」男の絶望と希望を紹介したいと思います。

「探さないでください」は、著者・中川学が「映画の仕事」をしたいという夢から逃げた結果、親から勧められ「中学校の先生」になるが、その現実に耐えられず失踪したノンフィクションマンガです。

あらすじ

本作は、著者・中川学が自分の”過去の失踪”を、その現場を巡りながら、関係者にその時の証言を聞く形で回想する漫画です。

そもそもなぜ失踪したのか。中川は、学校卒業後に、実家からほど近い北海道の網走市「山びこ中学校(仮名)」に赴任したことから話ははじまる。

しかし授業も部活もうまくいかずに、いきづまり体調も崩す。そして9.11同時多発テロが起こったその日、誰にも何もつけずに、アパートから失踪する。

中川はその当時のことをふりかえるために当時の生徒の実家の定食屋や、実家に寄ってその当時のことを聞いて回った。

実家の母からは、自分が失踪したあとの職場とのやりとりや、アパートに行ったこと、中川を探し回ったことを聞く。

母は体調が悪かったのだと中川を責めなかったが、体調が戻った後も様々な職場から逃げた経験を思い出し自己嫌悪に陥る。

中川の失踪は、網走から札幌、室蘭、そして苫小牧からフェリーで本州へ移動、東京、尾道へと続く。

なぜ尾道か。そこは中川が好きな映画・大林宣彦監督の尾道三部作の舞台だった。中川は尾道の旅館で自殺を試みるが寸でのところで生きることを選ぶ。

そして失踪は東京を経て、実家へ戻って終わるのだった。

その行程を追う中で、中川はそもそも自分の逃げ人生は、中学校の時に苦手な先生から逃げたことに起因することや、弟や両親が味方になってくれていたことを思い出す。

失踪を終えた中川は、「人生どうせうまくいかないんだったら、好きなことやってうまくいかない方がマシなのでは…」と思い、漫画家を目指すのだった。

みどころ

夢からも現実からも逃げた結果が失踪だ

中川氏にとって教師生活は失踪するほどつらいかったわけですが、そもそもなぜ教師になってのか?

そこには「打算的な考え」と「不安定な道に行く勇気がなかった」ことと説明している。

打算的な考えとは。もともと中川氏は映画が好きで映画関係の仕事につきたかった。

でも現実味がないなと思い、夏休み・冬休みがある公立の先生だったら、その期間に映画づくりをすればいいんだと思いつく(いや多分無理でしょ)

しかし教育実習がうまくいかなかったことから、親に映画の専門学校に行きたいと告げた。しかし反対に合い、自分も「不安定な道に行く勇気がなかった」と言っている。

つまり「夢=映画」からは不安定だと逃げ、「現実=先生」からはうまく行かずに逃げ、その結果が失踪だったと言っているわけです。

この「夢からも現実からも逃げた結果が失踪だ」という言葉重すぎて…読みながらウッとなってしまいました。

こんな人いっぱいいるわけですよね、私もそうかもしれません…。

嫌われたくない願望

なぜ失踪してしまったか?この物語の本質の部分ですが、ここがものすごく共感した。そして、自分にもプチ失踪と言っていいようなことがいっぱいあるな…ということを思い出しました。

まずは、下の中川氏の自己分析をお読みください。

赴任したばかりの時は先生にも生徒にも嫌われたくなかったから、適応しようと過剰に頑張った。でも結果がでなかった。 急激に頑張って、急激に挫折したんだ。
(中略)
とにかく面と向かって否定的な感情をぶつけられるのがたまらなく嫌だった。
(中略)
ボクにとって面と向かって嫌われることによるダメージが、失踪のリスクよりも大きかったってことだな…

これ読んで涙が出そうになった「急激にがんばって、急激に挫折した」というところ自分と一緒だなって。

私も新しい仕事、プロジェクトなどが始まった時に、人間関係うまくやる自信がないので、過剰な行動をしがちです。

妙に高いテンションでがんばったり、いつでも電話くださいと言って休日をつぶし、それくらいなら自分の金でと…使わなくていい金を使ったり…。

中川氏はそれを「不安」と称してますが、そう自信がないから「不安」になって過剰にがんばってしまうのです。

そして過剰にがんばれば、だいたいうまくいかないのです。過剰にがんばって、うまくいかなかった時のダメージがなかなかすごいです。

なんでこんなに自分は頑張ったのに…と人を憎み、自己嫌悪に陥るのです。

その結果、その仕事で関わった人達と距離を置くようになる。これって中川氏の「失踪」と同じですよね。

一般的にはこのような行動を「過剰適応」と言うようです。この件に関しては別記事で紹介したいと思います。

10年やれば食えるようになる

失踪を終え実感に戻ってきた中川氏は、「人生どうせうまくいかないんだったら、好きなことやってうまくいかない方がマシなのでは…」と思い漫画家を目指すわけですが、その時にに彼の支えになったのが思想家・吉本隆明の言葉だったそうです。

ある日私はウェブ上である言葉に出会うので

「あるひとつのことに関してこうやれば食えるようになる」ということの平均値がおそらく10年なんです。十年間毎日ずうっとやって、もしそれがモノにならなかったら俺の首やるよ。(「ほぼ日刊イトイ新聞 吉本隆明・まかないめし二膳目。」より)

私は「この言葉にすがってみよう」と思いました。それから毎日バイトが忙しくても疲れていても「4コマ漫画一本描く」「デッサン一枚描く」「面白エピソード一つメモする」ことを始めたのでした。

この言葉、私にもすごく勇気を与えるものでした。今40歳だけど、10年やれば食えるようになるんだったら、まだ50歳かと

40歳でも全然間に合うじゃんという気持ちになりました。

まとめ 世間の成功ではなく自分の幸せ

「夢=映画」から逃げ、「現実=先生」からも逃げ失踪した中川氏は、最後に開き直って、再び「夢」に戻り、映画はできないけど、漫画ならと漫画を描き始めます。

「現実」から逃げた末に、やっぱり「夢」に戻るってリアルだと感じました。

これは「夢=自分の幸福」「現実=世間がいう成功」ととらえることができるわけです。

世間が言う成功、ここで言うと経済的安定ですが、それを求めた結果は失踪だったわけですよね。それならやっぱり「自分の幸福」を追い求めたほうがいいやとなったわけです。

たとえその道が茨でもです。

さて「夢からも現実からも逃げた結果が失踪だ」「嫌われたくない願望」「10年やれば食えるようになる」この3つの言葉に反応した方はぜひ本書を手に取ってみてください。

もう読んだよ!っていう方は、ぜひ下の本も読んでみてください。

「夢」と「現実」の間で葛藤する漫画家たちの自伝的マンガ

初期作品集「ゾッキ」が映画化もされた大橋裕之のまんが道
「漫画で結果を出して早くこのねじれた生活を終わらせたい」

妻をネタにした漫画で人気の福満しげゆきのまんが道
「どうしよう…恋愛ゲームにも参加できず…漫画コンクールで相手にされず…学歴コースからも脱落しちゃって」

中川学氏の著書は他にもオススメです。

筆者の「風俗店で脳梗塞で倒れた」という実体験漫画です。「これ以上ないっていうくらい恥をかいた」&「一度死んだ身」という…もう恐れるものがないスーパーサイヤ人ですね。

紹介記事書きました

遠方に暮らす母への心配を募らせる四十路の主人公マナブ。今からでも間に合う親孝行術と、家族とのコミュニケーションのありかた方を考える超スペクタクル親孝行漫画!

中川 学、35歳。上京2年目の漫画家志望。ふと気づけば休日に遊ぶ人も、悩みを相談できる相手もいない毎日。大人になると、友人探しは切実な問題。SNSを活用し、イベントに出かけ、近所のバーへ繰り出し…人付き合いが苦手な男が不器用ながらも奮闘する、友だちづくりコミックエッセイ!

中川学、人付き合いが苦手な37歳。海外に行ったことがなく、外国人と交流した経験もほとんどない。そんな彼が外国人の友だちをつくるために引っ越したのは、ブラジル人・ペルー人が人口の1割以上を占める、群馬県の町。